眼窩脂肪移動術、ハムラ法の歴史と裏ハムラ法

目の下のクマやたるみ治療の手術方法の一つで、「裏ハムラ法」という言葉を聞いたことがある方がいるかもしれません。

裏ハムラ法のことを理解するにはハムラ法やその広い意味を言う眼窩脂肪移動術について知る必要があります。

今回は眼窩脂肪移動術、ハムラ法の歴史と裏ハムラ法とはということについて私なりに理解していることをお伝えしていきます。

革新的な手術方法を発表された名医の先生方の論文を参考にさせていただきました。

ハムラ法というよりはfat repositioningですよね

日本形成外科学会系の美容外科学会(JSAPS)では「ハムラ法というよりはfat repositioning(脂肪移動、脂肪再配置)ですよね?」というコメントをしばしば耳にします。

fat repositioningの一つの方法としてハムラ先生がハムラ法をご発表されたことからハムラ法という言葉が先走っており、「ハムラ法というよりはfat repositioningですよね?」という言葉にはその歴史的背景を感じます。

特にハムラ法の内容をてきとうに理解してハムラ法と言っていることもしばしばです。

眼窩脂肪移動術の歴史

眼窩脂肪の移動を最初に発表されたLoeb先生

眼窩脂肪による目の下の膨らみやたるみは昔は減らすことで目立たなくさせていました。
いわゆる切除をする(脱脂法)ということです。

ところで鼻と下まぶたの間にあるハノ字の溝が強いと脱脂を行っても改善が乏しいという課題があり、そこで眼窩脂肪を移動して平坦にする方法を1981年に発表されたのがLoeb先生です。

眼窩脂肪を移動することでクマをよく見せることを最初にご発表されたのがLoeb先生ということになります。

日本美容外科学会(JSAPS)でも最初に報告したのはLoeb先生であるというコメントを聴きます。

Loeb R : Fat pad sliding and fat grafting for leveling lid depressions. ClinPlastSurg 8 : 757-776,1981

眼窩脂肪全体を移動する方法をHamra先生が発表

1995年にハムラ先生は目の下の眼窩脂肪を内側、中央、外側の全てにおいて移動させる方法を報告しました。このときは脂肪を包んでいる膜は一部切除する方法でした。

1998年に眼窩脂肪を包んでいる膜も脂肪と一緒に下に固定する方法を報告しました。

これがいわゆるハムラ法です。

Hamra ST : Arcus marginalis release and orbital fat preservation in midface rejuvenation.
Plast Reconstr Surg 96 : 354-362, 1995

Hamra ST : The zygorbicular dissection in composite rhytidectomy ; An ideal midface plane.
Plast Reconstr Surg 102:1646-1657,1998

下まぶたの裏から眼窩脂肪を移動する方法をGoldberg先生が発表

2000年にGoldberg先生が下まぶたの裏(経結膜的)から眼窩脂肪を移動する方法を発表しました。

Goldberg先生は脂肪の固定を骨膜下に行う方法を報告されています。

これがいわゆる裏ハムラ法です。

Facial Plast Surg. 1999;15:225-229. 

Fat repositioning in lower blepharoplasty to maintain infraorbital rim contour

R A Goldberg 1C EdelsteinN Shorr
Plast Reconstr Surg 2000 Feb;105:743-748

Transconjunctival orbital fat repositioning: transposition of orbital fat pedicles into a subperiosteal pocket

R A Goldberg

下まぶたの裏から眼窩脂肪を移動する方法をKawamoto先生が発表

2003年にKawamoto先生らが下まぶたの裏(経結膜的)から眼窩脂肪を移動する方法を発表しました。

Kawamoto先生らは脂肪の固定を骨膜上に行う方法を報告されています。

Kawamoto HK, Bradley JP :The tear "TROUGH" procedurc ;Transconjunctival repositioning of orbital unipedicled fat・Plast Recostr Surg 112 : 1903-1907, 2003

日本で言われる裏ハムラ法は本当か?

今、日本では瞼の裏から眼窩脂肪を移動する方法を杓子定規に裏ハムラ法と言っています。

でも、本当に裏ハムラ法を行っているのか?という疑問を私は持っています。

Hamra先生やGoldberg先生がご発表されている眼窩脂肪の移動方法や眼窩隔膜の処理を同様に行っているかどうか。

だから最初にお話した「ハムラ法というよりはfat repositioning(脂肪移動、脂肪再配置)ですよね?」という言葉が学会でもでてくるのです。

眼窩脂肪を移動する方法はとても画期的な方法だと思います。

実際にはHamra先生やGoldberg先生がご発表されている眼窩脂肪の移動方法や眼窩隔膜の処理を行うことではうまくいかない症例も多々あると当然考えられます。

(私は眼窩脂肪の移動術を「経結膜的眼窩脂肪組み換え術」と申しています。厳密にはハムラ法ではないこととハムラ法というには恐れ多いという意味合いもあります。)

韓国では脂肪再配置という言葉で日本に紹介されている

韓国の美容外科クリニックが日本語で情報を出す場合、眼窩脂肪移動術を「脂肪再配置」として出しています。

今はそれを日本でも使っていることが多いです。

脂肪再配置=fat repositioningとして使っていると思われますので、とても表現としてはまともに見えます。

まとめ

裏ハムラ法とは何かということを知るにはその眼窩脂肪の移動術の歴史、背景を知る必要があります。

海外の論文では眼窩脂肪移動術の工夫はハムラ法に続き様々報告されています。

日本の裏ハムラ法とはその言葉に準じた手術方法をしているということになりますが、本当にそうであるかどうかは慎重に考える余地があります。

筆者紹介

著者
石川勝也
役職
プラストクリニック院長
資格
日本形成外科学会認定専門医
日本美容外科学会認定専門医(JSAS)
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